後知恵バイアスとは、予測不能なできごとに対して、予測できるように錯覚することです。
これは、有名で強力な認知バイアスです。
人は、ある出来事に対して、すべて予測できるような錯覚をします。
しかし、実際には、推測ができても、確実な予測は不可能です。
嫌な予感がしたんだよね。
これは典型的な後知恵バイアス(後見バイアス)と言えます。
後知恵バイアスの特徴は、出来事のあとに、出来事の前を(強く)思い出すことです。
終わったことは「どうにもできない」という事実に対して、次は「どうにかしたい」という学習の本能なのでしょう。
目次
後知恵バイアスの悪い例
後知恵バイアスがあると、人はどんな影響を受けるのでしょうか?
例えば、クルマの教習にある筆記試験です。
交通ルールは、常識的です。
そのため、試験を受ける前は「これ以上、知らないことはない」と思い込みます。
しかし、実際の試験では、予想よりマークシートの回答が多いのです。
「この回答は違う」という知識を得ていないため、混乱することがあります。
もちろん、自動車教習以外の試験でもよくあります。
「引っかけ問題」と言って、問題を出す側の良識を疑いますが、実際は、自分の勉強不足もわずかにあるのです。
後知恵バイアスは、自信過剰を誘発します。
自分は、知っていると思い込むので、実際の試験で戸惑います。
○○だから、○○の目に会う
後知恵バイアスは、人を傷つける場合があります。
- 「そんな友だちと付き合うから」
- 「気が緩んでいるのではないか?」
- 「そんな格好をしているから」
こういうことを言う人は、「自業自得だ」と、言いたいだけです。
しかし、いかにも論理的に聞こえます。
後知恵バイアスによって、知っていたかのように振る舞うのです。
こうなってしまうと、思考が止まり、本当の理由にたどり着けません。
根拠がないにも関わらず、被害者を傷つけることさえあります。
後知恵バイアスは、不当に人を傷つけることがあるので、気をつけなければいけません。
映画の真犯人
映画や小説には、後知恵バイアスを使った手法が隠されています。
まさか、あの人が真犯人だったなんて。
ミステリー映画の醍醐味です。
あなたは、映画が終わったあと、真犯人の登場シーンを強く思い出します。
また、真犯人のちょっとした行動がヒントだったと気づきます。
後知恵バイアスの特徴にもあるように、結果(真犯人)に関するイベントが呼び起こされるのです。
「どうして気づけなかったのか」というのも、後知恵バイアスです。
もともと映画は、そのように作られています。
真犯人がバレるのだけは、どうしても避けたいのが監督の意図です。
しかし、ヒントがなければ、視聴者は納得しません。
映画の制作者は、非常に上手く、後知恵バイアスを利用しているのです。
後知恵バイアスの悪い影響を受けた例
前述のように、後知恵バイアスは、自信過剰を誘発します。
もうひとつ悪い影響があります。
それは、真実にたどり着ける道を、邪魔することです。
2000年の7月、コンコルドという高速旅客機が墜落しました。[※]
事故原因は、別の旅客機が整備不良によって、滑走路に金属部品を落としたせいです。
しかし、真っ先に疑われたのは、コンコルドのエンジン部品や、テロの疑いです。
とくに墜落した機体は、エンジンの部品を離陸前に交換し、出発が遅れていました。
後知恵バイアスの特徴は、過去を強く思い出すことです。
最もアクセスしやすい記憶は、固定概念を作ります。
後知恵バイアスによって、全く別の要因を探すことが難しくなったのです。
この事故があってから、「コンコルドは事故が多かった機体」という思い込みが見受けられます。
これも認知バイアスのひとつです。
コンコルドは、機体数が少なく、飛行時間も少ないため、たった1回の事故(しかも他の飛行機が原因)で、「事故率が高い」という汚名を着せられました。
後知恵バイアスの良い影響
後知恵バイアスの悪い影響のひとつは、自信過剰です。
しかし、自信過剰は、あなたの味方をすることもあります。
自分を過大評価することで、実際に能力を発揮することができます。
▼自信過剰と能力の関係は、以下の記事にて詳しく説明しています。
人は、適度に自信がなければ、あきらめてしまいます。
後知恵バイアスを防ぐ方法
後知恵バイアスについて、詳しい心理学の研究報告があります。[※]
この論文には、前述したコンコルドの例も載っています。
また、少しでも後知恵バイアスを防ぐ方法が書かれています。
起きなかった出来事を考える
後知恵バイアスを防ぐには、起きなかった出来事に注目します。
なぜなら、起きた出来事に注目すると、真っ先にアクセスしやすい記憶を思い出すからです。
思い出した時点で、探すことを辞めてしまうのです。
これを防ぐために、起きなかった出来事を探します。
「起きなかった出来事が、どのようにして起こる可能性があるか?」と考えたとき、後知恵バイアスを軽減することができます。
起きた出来事ばかりに注目すると、別の要因を見つけようとしなくなります。
そうはいっても、後知恵バイアスは、非常に強力です。
完全に取り除くことは、できないでしょう。
知っていたように振る舞う人々
予測が当たるほど、気持ちの良いものは、ありません。
だからこそ、過去の記憶を掘り起こし、すべて予測できると信じ込みます。
度が過ぎると、どうなるのでしょうか?
雨女、雨男を信じるように、間違った信念を持ってしまいます。
こうして根拠のない判断材料を、意思決定に入れてしまうのです。
それは、あきらかに遠回りの人生です。
そうなるだろうと思っていたよ。
起きた後だからこそ、言えるセリフです。
過去を追求するより、一緒に未来を考える方が、はるかに有意義なことです。