少し前に、「アンパンマンは暴力的ではないか?」という心配をする記事が話題になりました。
この記事では、「メディアが暴力を正当化した場合、暴力的な思考になる可能性がある」という研究が(リンク・引用元なしで)あると書かれています。
もちろん、暴力的な影響が「ある」「ない」の研究が両方とも存在しているはずです。
気をつけないといけないのが、木ではなく、森を見ることです。
この問題は、ゲームと暴力に関する研究報告で何度も議論されてきました。
「暴力的なゲームで攻撃性が強くなる」という研究報告はこちら。
- 論文:Metaanalysis of the relationship between violent video game play and physical aggression over time
「暴力的なゲームで攻撃性が強くなる証拠はない」という研究報告はこちら。
※両方とも、有名な論文ジャーナルに掲載されています。
今のところ、ゲームが暴力的な行動に影響するという証拠はありません。
全体的に見ると「さらなる研究が必要」という見解に落ち着くでしょう。
(暴力的なゲームは、目をそらすほどの描写もあるので、年齢ごとに規制されています)
そして、重要な点があります。
それは、正当性のある暴力と、不当な暴力を見たときの脳反応は、科学的に違うという点です。
正当性のある暴力と、不当な暴力では、脳の反応する場所が違います。[※]
ただし、このような(脳の反応を見る)実験を幼児で行うことはできません。
この問題について、注目すべきは、暴力ではないのです。
目次
スーパーマンになりたい? ヒーロー効果
心理学の研究は、スーパーマンなどのヒーローに、どのような心理影響があるかを見つけました。[※]
実験の参加者(123人)らは、2つの部屋に分けられました。
- スーパーマンのポスターがある部屋
- 自転車のポスターがある部屋
このどちらかの部屋で、アンケートに答えることが本題だと思わせるようにしています。
本当の意図は、参加者らに気づかれないように隠しています。
研究者は参加者に対して、アンケートの記入が終わったあと、以下のようにお願いをしました。
新しい研究に協力をしてもらえないでしょうか?
ちょっとだけ時間が掛かります。
内容も退屈です。でも、人に役立つ研究なのです。
実験の参加者は、スーパーマンのポスターがある部屋では、協力に応じる率が高くなりました。
「退屈です」と、念を押したにも関わらず、ヒーローのポスターがあっただけで、その後の行動に影響が出たのです。[※]
- このように、先に経験した情報が、後の行動に影響することを心理学では「プライミング効果」と言います。
ヒーローを見ると利他的になる
利他的とは、自ら報酬を求めず、人を助ける行為です。
前述の研究では、ポスターがあるだけで、利他的な行動をするようになりました。
これは映画やアニメでも同様でしょう。
補足:この記事では、ヒーロー・ヒロインの区別はしていません。「ヒーロー」は、性別に関係なく使われるので、こちらの単語で統一しています。
「なりたいか?」が重要
この実験のポイントは、「なりたいか?」です。
ほとんどの人は、ヒーローみたいに「他人を助け、思いやりの心を持ちたい」という考えを持っています。
人間は社会的な生き物なので、本能は攻撃的ではありません。(争いが起きるのは、コミュニティ同士です)
これが重要なポイントです。
「暴力的な人になりたい」とは、思っていないのです。
そしてヒーローは、私たちの「味方」です。
- ヒーローが味方であること
- ヒーローのように、なりたいと思っていること
この2つがプラスとなって、利他的な行動に影響しているのです。
▼以前の記事でも「善意の行動は広がりやすい」という研究を紹介しています。
「思いやり」の感情や「人助け」の行動は、影響を受けやすいのです。
思いやりに目を向ける
アンパンマンは、自分の顔をちぎって、空腹の子どもに食べさせてあげます。
非常に利他的な行為です。
人助けを伝えるのには、子どもにも分かりやすい表現です。
暴力を心配する必要はありません。
見るべきは、暴力ではなく、道徳的な行為です。
ヒーローの思いやりに目を向けることで、道徳心が育ちます。
○○のような子になって欲しい
教育に効果的な言葉は、どちらでしょうか?
- ○○してはいけない
- ○○のようになって欲しい
心理学では、2つめの「○○のようになって欲しい」の方が、効果的な言葉になります。[※]
「○○のようになって欲しい」は、人格を対象にしているからです。
一方で「○○してはいけない」は、その都度の行動が対象です。
人格のモデルがいることで、人間は従いやすくなります。
子どもに限らず、大人も同じです。
利他的な人は収入が高い
世界6万人以上を対象とした最新の研究では、「利他的な人は収入が高い」という調査結果が出ています。[※]
自分のことしか考えない人よりも、他人との関係を大切にする人は、様々なメリットを受けられるのです。
相手のことを考えず、自分勝手な人は、結果的に損をします。
この結果は「自己中心的な方が人生うまくいくのではないか?」という不安を消し去ることでしょう。
バットマン効果
バットマン効果という研究報告があります。[※]
これは、子どもに「バットマンのようになって」とお願いすると、忍耐力が高まるという報告です。
ヒーローのように振る舞うことで、ヒーローのようになれるのです。
ヒーロー像を傷つけない
もうひとつ、大切なことは、ヒーロー像を傷つけないことです。
「バイキンマンがかわいそうだね」
と言ってしまえば、アンパンマンはヒーローではなくなる可能性があります。
ヒーローの拳ではなく、見返りを求めない、他人を助ける行為に目を向けましょう。
暴力で成功してはいけない
子ども向けの物語は、暴力で成功させないことです。
「成功する暴力」とは、復讐のストーリーで使われる暴力表現です。
暴力に注目し、正当化することで影響を受ける可能性があります。
いわゆる復讐劇は、高度に感情が発達した大人向けのストーリーと言えます。
近年のマンガやアニメ
マンガやアニメのストーリーは、ますます複雑になっています。
これは、大人も楽しめるような工夫がされているからです。
作る側は、作品をヒットさせないといけないので、難しい判断です。
その点、「アンパンマン」や「しまじろう」などの作品は、安心して幼児に見せることができるでしょう!