周りが見えないほど、集中したことはありますか?
私たちは、スポーツからゲームまで、時間を忘れるほど熱中することがあります。
心理学では、フロー体験と言います。
今回は「フローとは何か?」を分かりやすく解説します。
フローを理解して、生活や仕事に役立てるには、どうすれば良いのでしょうか?
(フローは、本当に知って良かった心理学のひとつです)
目次
心理学のフローとは?
フローとは、ハンガリー系アメリカ人の心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が発見した心理状態です。
誰もが経験したことのある、時間を忘れる感覚です。
- 圧倒的に集中している
- 時間を忘れて、夢中になっている
アスリートや経営者は、ゾーンと呼んでいます。
心理学のフローも、ゾーンと同じです。
ウィキペディアにもありますが、少し難しいので分かりやすく解説します。
フローが起こると、活動を楽しむことができます。
「仕事が楽しい」という人の感覚と同じです。
簡単にフローを体験する方法
テトリスというゲームがあります。
このゲームは、誰にとっても面白く感じます。
そのため、過去に大ブームとなりました。
冷静に考えると、面白いという感情とは、少し違うと分かります。
夢中になって、プレイしているのです。
ただひたすら飽きずに、やり続けてしまいます。
フローは、「飽きることなく、やり続ける」という状態です。
テトリスは、手軽にフロー状態を体験できます。
(テトリスは心理学の研究でも、よく使われています)
フローを起こす条件
フローは、どのような条件で起こるのでしょうか?
フローの条件を知ることで、仕事や生活に応用することができます。
夢中になるためには、条件があります。
素早いフィードバック
丸めた紙を、ゴミ箱に投げるのを想像してください。
注目するのは、ゴミ箱に入らなかった時です。
図のように、手前で落ちたなら「投げる力が足りなかった」と、すぐに分かります。
今度は遠くに投げようと、直感的に筋肉を調整します。
右にそれたなら、次は左に調整して投げるはずです。
これが「素早いフィードバック」です。
この時点で、小さなフローが起きています。
ゴミ箱に入るまで、挑戦したくなるのです。
フィードバックがないとフローが起きない
「目隠しをして、10回ずつ投げる」というルールに変更すると、フローは起きません。
フィードバックは、10回ごとしか確認できないからです。
何回目に投げた紙くずかも、分かりません。
これでは、フィードバックとして、機能しません。
したがって、やる気も起きなくなります。
遅いフィードバックだと起きにくい
フィードバックが遅いと、フローが起きにくくなります。
料理であれば、味見をしないのと同じです。
味見をしながら調整した方が、直感的で素早いフィードバックが得られます。
料理が楽しいと感じる要因のひとつです。
フィードバックが早くできないか?
仕事や日常生活では、フィードバックのスピードを工夫してください。
人生の楽しみ方が変わります。
スキルにあった難易度が必要
次に、スキルと難易度のバランスが重要です。
- 難易度が高すぎると、挫折します
- 難易度が低すぎると、楽しくありません
冒頭にあるテトリスのゲームでは、次第にゲームスピードが速くなります。
ゲームスピードは、難易度です。
難易度とスキルのバランスが良いとき、もっとも集中できます。
ゴミ箱に紙くずを投げるゲームですら、適度な難易度があります。
下図は、フローを起こす難易度とスキルの法則です。
何かを学習したり、挑戦するとき、スキルと難易度のバランスを調整してください。
スキーであれば、ハの字でゆっくりと滑ることが大切です。
難易度をステップアップしていけば、フローが継続します。
このようにすれば、学習ですら夢中になることができます!
活動に意味があること
活動に意味がなければ、フローは起こりません。
社会的に意味のある活動や、人助けです。
救助隊員の人は、極度な集中状態を経験します。
これもフローです。
目標があること
もうひとつ必要なのは、目標です。
難易度のバランスが取れた目標であれば、フローが起こりやすくなります。
フローが起こることによって、目標達成にも近づきます。
何をするべきかハッキリしてる
家事をするのに、「お皿を洗う」といった小さな目標で構いません。
これは「素早いフィードバック」があるからこそ、次の目標を考える暇がなく、すぐに行動することができます。
何をすれば良いのか、目標を失ったとき、フローは中断されます。
次にやることが続けば、フローも継続します。
自ら行動すること
フローは、自発的な行動で起こりやすくなります。
「自ら進んで」と他人に言われても、本当の意味で自発的にはなれません。
逆に、フローを見つければ良いのです。
日々の活動からフローを見つけて、楽しむことができます。
また、テレビを見たり、リラックスしてるなどの「受動的な活動」では、フローが起こりません。
受動的な楽しみは、どうしても環境に左右されます。
受動的な限り、自分でコントロールできません。
しかしフローであれば、自分で楽しみを作ることができます。
結果ではなく過程
誰もが結果のために、努力をします。
しかし、フローは過程です。
過程を楽しむことができれば、結果が付いてきます。
過程を楽しめば、結果も良くなる。
これがフローの本質です。
過程を楽しむために、フローを作って、最高の結果を得てください。
太鼓の達人というゲーム
「太鼓の達人」というリズムに合わせて、太鼓を叩くゲームがあります。
こういった音楽ゲームは、フローが起こりやすいことで注目されています。
実際にRock Bandという演奏ゲームは、フローの研究に使われました。[※]
太鼓の達人は、自分にあった難易度を選ぶことができます。
上手くタイミングが合ったり、ミスをしたときは、視覚で「良」や「不可」という文字が出ます。
これが素早いフィードバックです。
仕事とフロー
仕事には、たくさんのフローが隠されています。
レジを打ったり、お客さんと話したり、クルマの運転でも、フローが起こっています。
ここで大きな疑問があります。
それは「遊びやゲームでフローが起こるのに、仕事でも同じフローが起こる」ということです。
時間を忘れるほど、夢中になり、楽しんでいるはずです。
同じフローなら、仕事も楽しいはずです。
仕事はつまらないもの?
デザインが好きな人は、デザインだけできるなら最高に幸せです。
しかし実際は、デザイン以外の仕事が多くあります。
さらに嫌な上司や、先輩がいるかもしれません。
そういった仕事の体験が、仕事を楽しくないものに感じさせています。
歴史として認識されている
「仕事がつまらない」というのは、「歴史によって刷り込まれてきた」という側面もあります。
実際に「仕事が楽しい」という人も多いのですが、この刷り込みは、非常に強力です。
もちろん、歴史や先祖を責めるわけにはいきません。
しかし、一般的な感覚として、身についてしまっています。
フローを見つけて、フローの作業を増やしてください。
仕事の中で、楽しい割合を増やすのです。
これは、好きなことを見つける方法でもあります。
フローが見つからない時は?
フローには条件があります。
そのため、自分に適したフローは、見つからないこともあります。
そういった時は、転職を考えても良いでしょう。
とくに「活動に意味がない(社会の役に立つか疑問)」という場合は、フローを起こすことができません。
したがって、自分も楽しむことができません。
人を助けることで、私たちは喜びを得ることができます。
フローを人生に役立てる方法
フローについて、知れば知るほど、人生に重要な発見だと分かります。
それでは、どのようにフロー体験を人生に役立てるか、例をあげて説明します。
フローの割合を増やす
フロー体験は、人によって様々です。
「楽器を演奏する」「絵を描く」という活動が楽しい人もいれば、楽しくない人もいます。
そして驚くことに、エクセル入力などの事務作業で、フロー状態になる人もいるのです。
夢中になれる仕事の割合を、増やしてください。
外注したり、様々な工夫をすることで、フローの時間を増やすことができます。
フローを中断させない
毎日のミーティングを中途半端な時間に設定していませんか?
11時、14時、16時など、作業を中断する時間帯は、フローも中断されます。
このような時間帯のミーティングは、時間を守らない人が続出します。
誰もがフローの中断を嫌がるからです。
再びフローに戻るのに、時間も掛かってしまいます。
フィードバックを増やす
フローの条件には、素早いフィードバックがあります。
フィードバックというと、ミスを指摘するイメージがあるかもしれません。
「上手くできている」というポジティブなフィードバックも必要です。
また「間違っている」というネガティブなフィードバックには、ネガティブな感情を取り除いてから、指摘してください。
怒ったり、機嫌が悪い状態でフィードバックを送ると、相手はそれを回避するだけの行動をします。
これでは、フローが起こらないだけでなく、スキルアップもできません。
コーチングで重要なのは、素早いフィードバックです。
コーチの機嫌を気にする状態では、スキルアップができません。
心理的な安全を確保する
太鼓の達人を思い出してください。
ミスをすれば、「不可」という文字が出るだけです。
「不可」という文字だけでは、心も傷つきません。
すぐにタイミングを調整することができます。
会社、学校、スポーツの現場では、ミスできる環境を作ることが大切です。
「大きなミスにならないために、小さなミスをさせる」という逆転の発想をしてください。
難易度を工夫する
デザイナーは、「もっと良くできないか?」を常に考えているので、フローが起こりやすくなります。
プログラマーは、実際に動くプログラムを書くだけでなく、見やすい綺麗なコードを書くことに、チャレンジできます。
それでは単純作業だと、どうでしょうか?
どんなに単純な作業でも、工夫次第で、フローを作ることができます。
河原の石を積むだけでも、創造的な工夫ができるのです。
休日こそ工夫が大事
フローは「喜び」や「幸福」、「楽しさ」に繋がっています。
仕事であっても、時間を忘れるほど夢中になった後は、妙な満足感に包まれます。
前述の通り、テレビなどの受動的な活動では、フローが起きません。
受動的な活動には、大きな問題があります。
それは、フローを邪魔することです。
フロー体験を選ばない理由
スキーやスノーボードは、フローの条件が揃っています。
滑り終わっても、時間が許す限り、何度もリフトに乗ります。
このアクティビティは、非常に強力な「楽しみ」や「喜び」を得ることができます。
あなたは次の日曜日、スキーに行きたくなったので、友人を誘います。
しかし、みんな都合が悪いようです。
そして日曜日は、何となくテレビを見て過ごします。
このように「受動的な活動は、アクセスがしやすい」という法則があります。
何かをやり始めれば、フロー状態となり、楽しむことができるのに、アクセスしやすい活動に流れてしまうのです。
フローを意識する
もちろんリラックスする時間は、人間に必要です。
私たちは、あまり意識していないので、フロー体験をする前の段階でやめてしまうのです。
「スキーや釣りをするのに、早起きをする」というハードルを越える必要があります。
同じ趣味を持つ友人と約束すれば、ハードルは低くなります。
(約束を破る方が難しいからです)
何か創作活動をするとき、受動的な活動に流されないように意識しましょう。
思った以上に、それはエネルギーを使います!
最後に日記を書く
ほとんどの人は、自分の人生で「何が楽しいか」を知ることができません。
フローを見つけて、もっとも夢中になれることを探してください。
日記を書いて、振り返るのも有効です。
日記を書くことで、体験したときの気分を整理できます。
もっとも気分が盛り上がるフローを見つけてみてください!
参考文献
- Flow (psychology)
- フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR) M.チクセントミハイ(著)