鏡を使うのは、人間だけです。
人間は、他の動物と違って、鏡がないと生活できません。
動物でも、水たまりには、自分の顔が映るはずです。
私たちは、動物が水面で自分を確認したり、自己認識に使っているのを見たことがありません。
しかし、動物も容姿は重要です。
ライオンのたてがみ、シカの角、クジャクの羽。
これらは、オスが強さをアピールするシグナルに使われます。
つまり、モテる要素です。
勇猛果敢(ゆうもうかかん)な自分を見せようとしているのでしょう。
そうであれば、自分の姿を確認することは、動物でも役に立つはずです。
また、あまりにオスが派手だと、絶滅の可能性が高いのは、皮肉なことです。[※]
メスにもアピールできますが、外敵にも見つかりやすいからです。
クジャクの羽は、色も派手です。しかし、動物は人間と同じ視覚を持っていません。
そのため、人間が見るよりも地味な色で、見つかりにくい特性があります。
一部の派手な動物が、絶滅していない理由のひとつです。
さて、鏡を見るという行為は、何なのでしょうか?
また、「鏡を見ないとどうなるのか?」について解説します。
目次
鏡を見ないと、どうなる?
「1週間、鏡を一切見ない」という実験をした人がいます。[※]
他に似たような文献もありますが、それらは結果も似ています。
最初は、自己肯定感が満たされ、幸福感が上昇します。
しかし、わずか数日で、他人との接触を避けるようになったのです。
そして、社会的な生活がなくなりました。
人は、必ず対面のコミュニケーションを取る際に、鏡を見ます。
自分が「どんな状態なのか?」を確認するためです。
これは、シミュレーションです。
鏡を見ているあなたは、他人になりきって、シミュレートしているのです。
「あなたがどのように見えているのか?」を確認するためです。
実際の見た目と違うことに注意
鏡を見ることは、対面のシミュレーションです。
しかし、注意が必要です。
鏡は、左右反転しています。
そして、ほとんどの人は、相手の左側を見ます。[※]
- これは右利きの人に当てはまります。(つまり大多数です)
パソコンの画面でもそうですが、右側を最初に見る人は、少数です。
鏡は左右反転しているので、実際の見た目と「かなり」違うように見えるのです。
私たちに、「鏡と現実がそこまで違う」という認識がないので、鏡の自分を信じてしまいます。
実際は、カメラとモニタで映した方が、シミュレーションとして、正確な結果が得られます。
これは、一部の人が写真を嫌う理由のひとつでもあります。
- 「写真うつりが悪い」
これは、鏡で見慣れた自分とのギャップです。
鏡を見る行為とは何か?
前述のように、鏡を見ることは、対面のシミュレーションと言えます。
コミュニケーションを取るために、鏡が必須なのです。
他には何があるのでしょうか?
相手の心を読むため
冒頭の動物の例には、続きがあります。
科学者らは、鏡を使って、「どんな動物が自分を自分だと認識できるか?」という実験をしています。
いわゆるミラーテストです。
2018年には、ホンソメワケベラという小さな魚が、自己認識できると判明しています。
意外なことに「パンダ」や「アシカ」は、自己認識が苦手なようです。
つまり、脳の大きさは、関係がありません。
ちなみに人間の赤ちゃんは、20ヶ月ほどで自己認識ができます。[※]
- 20ヶ月までは、「違う赤ちゃんか、別の何か」という認識をします。
心を読む動物が自己認識できる
自己認識が必要な理由のひとつで、科学者たちが提唱する強力な理論があります。
それは「心を読む必要がある」という共通点です。
ホンソメワケベラは、社会的な魚です。
パートナーにエサを与えたり、他の魚の寄生虫を食べます。
「心を読む」というと、超能力だったり、心理戦を想像します。
しかし実際は、誰もが常に行う行為です。
社会的に生きるため、「相手の気持ちを察している」のです。
恥も、心を読む行為
私たちは、誰かと会うのに、「恥ずかしいから」という理由で鏡を見ます。
ここで、恥について考えてみましょう。
恥とは、「相手がどう思っているか」という思考から生まれます。
そのため私たちは、相手の思考を勘違いすることが多々あります。
- 「相手はそう思っているに違いない」
これが「相手の心を読む」という行為なのです。
恥は、相手の心を読むからこそ、生まれる感情だったのです。
恥という人間的な行為を、動物の世界に落とし込むと、単純明快です。
社会的だからこそ、相手の心を読む必要があり、そのために自己認識が必要だったのです。
真実の鏡がある
研究では、嘘をついた3歳〜4歳児に、鏡の前に立ってもらうと、本当のことを言う確率が大幅に高くなりました。[※]
嘘をつく自分に嫌悪感があるのでしょうか?
鏡の前では、正直者になったのです。
鏡を見るのは、ほどほどにする
鏡を見る回数を減らすと、外見に関する不安が軽減します。
フロリダ州立大学の研究による心理効果です。[※]
この研究は、まだ初期段階のため、強い証拠ではありません。
それでも、私たちの外見に関する心理的な不安をやわらげる可能性があります。
鏡を見ることは、ナルシストではない
私たちは、鏡をよく見る人のことをナルシストだと感じます。
それは本当でしょうか?
ナルシストとは、過度に自画自賛する人です。
確かに、鏡を見るたびに「自分はイケてるなあ」と思う人には、ナルシストが当てはまります。
しかし、そうでない人もいます。
多くの人は、対面のコミュニケーションに不安があるからです。
不安が強い人は、対面を増やす
鏡を見ることで、自己批判が強くなる可能性があります。
これは、自分が「自分の理想とする姿と、かけ離れている」という理由です。
これでは、対面への不安が強くなります。
しかし前述の実験結果のように、鏡から完全に離れると、今度は対面ができなくなります。
ですから、ここは対面を増やすのが得策です。
つまり、「あなたの見た目は、何にも影響しない」という事実と経験を増やすのです。
もっと簡単に言うと、「慣れ」や「耐性」です。
「悪く見られたかも」という無意味な心配をするより、「人と会って良かった」というポジティブな経験に目を向けてください。
最後に注意点
鏡は、気分を良くしたり、逆に気分を悪くすることができます。
鏡を使うのは、「他人と比較する」というより、対面のシミュレーションとして使われるのです。
他人と比べることについては、以下の記事をご参考ください。
ただし、対面のシミュレーションは、相手と自分の感覚が一致する必要があります。
私は20代のころ、鏡の前で着る服に迷っていました。
ファッションセンスがないのを恥ずかしいと思っていたからです。
しかし、恥という感情は、相手の心を正しく読めることが前提です。
自分がイケてると思っても、相手には、変に見えることがたくさんあるのです。
このような感覚を磨くには、とにかく経験を増やすことです。
何度も街に出て、周りを観察します。
経験がないのであれば、専門家(服ならアパレル店員)に選んでもらうと早いです。
いずれにしても、他人の心を読んだり、他人の感覚を身につけることは困難です。
そうであれば、鏡を見るのは、ほどほどが良いでしょう!