「hike your own hike」という言葉があります。
直訳すると「自分のハイキングをハイキングする」です。
この言葉は、「他人が何km進んでいるかを気にせず、自分のペースでハイキングする」という意味です。
つまり「他人と比較するのをガマンしましょう」という教訓です。
他人と比較することで、無駄に劣等感を抱いたり、ハイキング自体を楽しめないからです。
昔から「他人と比較しない方が良い」と言われてきました。
現代のSNSでも、そういた主張は多く見ることができます。
しかし、他人と比べることは、「自分を知ることができる」というメリットもあります。
他人との比較は、良いのでしょうか?
それとも、誰もが言う通り、悪いことでしょうか?
目次
つい比較をしてしまう理由
いくつかの動物は、ミラーテストによって、自己認識ができます。
その中でも人間は、他の動物より、自分を認識できる生き物です。
ミラーテストは、文字通り鏡を使って、自分を認識できるかを調べる手法です。
アシカやパンダは、自分を認識するのが難しいようですが、最近ではサカナが自己認識できることが判明しています。
また、自分を知るためには、鏡を見るだけでは不十分です。
自分を知るためには、他人を知る必要があります。
つまり、他人と比べることです。
人は1日に10%以上の比較をしている
私たちは、何かしらの比較を常にしています。
心理学の研究によると、人間は1日に10%以上の比較をしていることが分かっています。[参考文献※1]
すべての思考のうち、10%以上も比較に使うのですから、私たちは比較が大好きです。
ここに「つい比較をしてしまう」という人間の性質があります。
間違った比較をする理由
「隣の芝生は青い」ということわざがあります。
自分のものより、「他人のものがよく見える」という意味です。
実際にこの心理バイアスは存在するので、正しいことわざです。
なぜ、このような心理が起こるのでしょうか?
それは、比較対象が間違っているからです。
心理学の研究によると、私たちは、もっとも高いスキルを持った人間と比較してしまうようです。[参考文献※2]
例えば、コミュニケーション能力です。
前述の研究では、自分のコミュニケーション能力について聞かれたとき、最も能力の高い人を想像することが分かっています。
本来であれば、平均的な人と比較するのが正しいはずです。
それを無視して、最もコミュニケーション能力が高い人と比較してしまうのです。
比較の悪い心理効果
前述のような「間違った比較」は、悪い心理効果があります。
自己肯定感が下がるのです。
「他人より劣る」という間違った認識を持つことで、気持ちが満たされないからです。
つまり比較は、幸福感が低下します。
正しい比較で自己肯定感を回復できる
幸福感には、バランスがあります。
社会にいなければ、一定の幸福感を確保できるでしょう。
しかし、無人島で過ごすわけにもいきません。
人間は、社会的な生き物です。
したがってバランスを取る必要があります。
このバランスが崩れているのが先進国です。
先進国に行くほど、キラキラしたモデルや、裕福な人を見る機会が増えます。
メディアが発達しているからです。
そして、前述の研究が示すように、そういった人を比較対象にしてしまいがちです。
この間違った比較を辞めることが先決です。
スーパースターと比べることの善悪
前述のように、スペックが高い人と比較すると、幸福感が失われてしまいます。
そうであれば、スーパースターを目指すのは、悪い習慣でしょうか?
これは、少し複雑です。
プロスポーツの世界では、有名な選手に憧れて、成功している人がたくさんいます。
しかし、以下の記事にある通り、「誰にもなれない」という心理は、幸福感を削ります。
大切なのは、憧れることで「プラスになるかどうか」です。
この問題については、「スーパースターと私」という心理学の研究があります。[参考文献※4]
この研究によると、目標を達成できる可能性がある場合でのみ、パフォーマンスがアップします。
つまり、スーパースターに憧れることで、普段よりも頑張ることができるのです。
しかし、達成できないと分かったとき、自己嫌悪を感じる可能性があります。
この研究では、参加した生徒の学年が低いほど、スターへの憧れがプラスに働きました。
人間は、未来が見えないからこそ、未来に可能性を感じるのです。
「隣の芝生が青い」を打ち消す方法
心理学の研究によって、平均、もしくは平均以下の人々と比べたとき、悪い心理効果から抜け出せることが判明しています。[参考文献※3]
人は、自分が平均以上だと信じています。[※▼詳しくは「うぬぼれの心理学」を参考]
しかし、平均以上であっても、決して満足できないのです。
ここで重要なのは、比較を辞めるのは難しいが「比較対象をコントロールすることはできる」ということです。
非現実的な人をターゲットにしていませんか?
「自分を知るのに、正しいスキルの人と比較できているか?」ということを、常に考えてください。
そして、誰もがこの罠に陥ると、認識しましょう。
参考文献
この記事は以下の文献を参考にして、独自の解釈でまとめています。
- Dare to Compare: Fact-Based versus Simulation-Based Comparison in Daily Life
- Home alone: Why people believe others’ social lives are richer than their own.
- The second pugilist’s plight: Why people believe they are above average but are not especially happy about it.
- Superstars and me: Predicting the impact of role models on the self.