有名な嘘があります。
人類は月に行ってない
多くの人がだまされました。
テレビの特集を見て、「人類は月に行ってない」というデマを信じてしまったのです。
なぜ、多くの人が騙されたのでしょうか?
人間は、社会的な生き物です。
人を信用しないと、生きづらくなります。
しかし、人を信用しすぎても、生きづらくなります。
オカルトを楽しむ分には良いですが、デマを信じるメリットはありません。
「月に行っていない」を信じるのはともかく、実際にアポロ計画に関わった人を傷つける可能性もあります。
今回は、あなたも騙されるかもしれない「信頼の科学」について、説明します。
目次
写真が絶対の信用を生む
どのような心理効果で、「人類は月に行っていない」と、人々は信じたのでしょうか?
ひとつは、デマの根拠となる説明に「写真と映像」があったからです。
月面着陸の写真には、加工の形跡があると、指摘されました。
もちろん、写真が加工された事実は、ありません。
写真があるだけで、人は信じてしまうのです。
「写真が強力な説得力を持つ」というのは、心理学の研究報告にもあります。
研究者らは、テキストとグラフ、画像がどのように信頼に関わるかを調べました。[※]
実験では、わざと間違った研究データを説明しています。
この説明には、あまり意味のない画像とグラフが使われました。
つまり、それっぽい画像とグラフを入れただけです。
- テキストのみ
- テキストと写真画像
- テキストとグラフ
実験の参加者らは、2の「テキストと写真画像」があるだけで、容易にデータを信じました。
写真があることで、説得力が高いと評価したのです。
どうやら写真を見ると、私たちは「本当のようだ」と、思い込んでしまうようです。
この写真効果は、様々な場面で利用できます。
私たちがプレゼンに使う資料でも、写真を使うだけで、説得力が高まります。
相手から信頼されるテクニックのひとつです。
もちろん、「人類は月に行っていない」は、デマです。
英語版のwikipedia[※]では、さらに詳しく解説されています。
日本では、テレビの影響力がありました。
さらに、大学の名誉教授が加わったことで、さらに多くの人が信用してしまいました。
肩書きは、強力なのです。
結局、嘘を真実だと知ってもらうのにも、写真や映像が必要でしょう。
「自分の目で見るまで信じない」というのは、人間なら仕方のないことです。
反対意見を探さない
テレビは受動的なメディアです。
自ら情報を得るネット検索と違い、受け身です。
「人類は月に行っていない」というテレビの情報を信じた人が、わざわざ真実を探すでしょうか?
その人にとって、真実は面白みがなく、探す価値がないのでしょう。
だまされたと知ったとき、初めて真実に気づくのです。
最新の正解で信じてしまう
あなたは、「何かをすれば、得点がアップする」という部屋に閉じ込められています。
部屋には、モニターに得点が表示されます。
得点アップの条件は、分かりません。
「机を動かす」「椅子に乗る」「右回りに歩く」など、様々なパターンを試します。
何をやっても、得点アップの法則は、分からないままです。
このように試行錯誤したあと、机に関連した何かをすると、5回連続で得点がアップしました。
あなたは、「机」に法則があると信じます。
この信念は、揺るぎないものになります。
よく考えて見ると、不思議なことです。
最初に試した「机を動かす」「椅子に乗る」「右回りに歩く」などの学習を無視しているからです。
つまり、学習した内容を使っていません。
最新の経験で判断しています。
そして、重大な事実があります。
それは「得点アップに法則はなく、部屋を監視していた第三者によって、得点がアップさせられていた」ということです。
実は、これと同じ心理学の研究があります。[※]
実験の参加者たちは、「ダクシー」という図形が、どんな形かを学習するように言われました。
もちろん「ダクシー」という図形は、存在しません。
そのため「正解」か「不正解」かのフィードバックをもらいながら、学習することになります。
実験結果は、先ほどの「得点がアップする部屋」と同じです。
最新の正解が、信念に変わりました。
人は過去の学習を捨てる
この研究報告は、過去の知識を捨てていることに注目です。
人間は、学習で得た過去の知識よりも、新しく得た知識を信じます。
私たちの脳は、それが間違っていても、新しい情報を信じるのです。
時代や環境は変化するのですから、当然とも言えます。
しかし、その性質によって「間違いを信じる」というトラブルが起きます。
過去の学習も大切にする
この研究は、大切なことを教えてくれます。
今のデータだけではなく、過去のデータも合わせて使うことで、真実にたどり着くことができる。
脳は、間違いや嘘の情報を信じてしまうので、注意が必要です。
他人にも注意が必要
冒頭の「人類は月に行っていない」という話に戻ります。
「月に行った」という事実は、古い情報です。
そこで新しい情報を「操作」されると、他人に騙されやすくなります。
特に、SNSやリアルのコミュニティに入ると、情報は操作しやすくなります。
「自分が騙されている」と、認識するのは難しいことです。
そのため、情報が操作されると、抜け出せなくなります。
迷信を信じる人は嘘を信じる
いくつかの歩行者専用ボタンは、ボタンを押さなくても、信号が変わるタイミングが同じです。
また、多くのエレベーターも、「閉じる」ボタンを押したからといって、ドアが早く閉まることはありません。
もし、それを知っていたとして、ボタンを押さずに待てるでしょうか?
心理学の研究は、「迷信を信じる人ほど、迷信を信じやすい」という心理傾向を見つけました。[※]
この研究は、(効かない)歩行者専用ボタンの例に似ています。
効かないと言われたボタンでも、効いていると思い込んでしまうのです。
この実験では、電球とボタンが使われました。
ボタンを押すのと、電球が点灯するのは、全く連動していません。
冷静になって検証をすれば、ボタンが連動していないことを簡単に見抜けます。
そして、あるグループの人たちは、「ボタンと電球が連動している」と、思い込んでいました。
そのグループは、迷信を信じている人たちです。
つまり、嘘を信じている人ほど、別の嘘を信じてしまう傾向にあるのです。
これは、他の研究でも見られます。
例えば、デマを信じる人は、SNSで「別のデマを信じている人たち」と、繋がっている傾向がありました。
こうして、正しい情報が入ってこないように、操作されるのです。
嘘に騙されないためには
これらの研究報告をまとめると、嘘やデマにだまされない方法が分かります。
- 写真を疑う
- 最新の情報だけを頼らない
- コミュニティを疑う
- 肩書きや外見で人を判断しない
結局のところ、人は、都合の良い情報を探します。
探した情報が合えば、確信するのです。
そして、都合の悪い情報は、「例外」とみなし、無視をします。
騙されている人を説得するのは、難しいのかもしれませんね。